「養子縁組って、2種類あるんですよね。何がちがうんですか」。
児童養護施設で働いていたころ、ボランティアの方や子どもたちから、何度かこう聞かれました。

そのたびに私は、うまく答えられませんでした。
現場で毎日子どもと向き合っていても、法律の細かいところまでは分かっていなかったからです。

はじめまして、フリーライターの水野佳織です。
保育士として児童養護施設で8年間働き、いまは社会的養護や女性のキャリアをテーマに記事を書いています。

この記事では、普通養子縁組と特別養子縁組のちがいを、民法の条文と国の資料をもとに整理します。
制度の説明だけでなく、施設で子どもたちを見てきた立場から「子どもの側にとって何がちがうのか」も書いていきます。

ひとことで言うと「親が増える」か「親が入れ替わる」か

2つの制度のちがいを一番短く言うなら、実の親との関係が残るかどうかです。
細かい要件を覚える前に、まずここを押さえておくと全体が見えやすくなります。

普通養子縁組は「親が増える」制度

普通養子縁組では、養親との親子関係ができたあとも、実の親との法律上の親子関係はそのまま続きます。
つまり、子どもから見ると法律上の親が増えることになります。

使われ方もさまざまです。
再婚相手の連れ子を養子にするケースや、孫を養子にして家や財産を引き継ぐケースなど、大人の事情で使われることも少なくありません。

特別養子縁組は「親が入れ替わる」制度

特別養子縁組では、実の親やその親族との法律上の関係が終わります(民法817条の9)。
法律上の親は養親だけになり、親が入れ替わる形です。

この制度ができたのは1988年1月1日です。
実の親のもとで育つことが難しい子どもに、安定した家庭を用意するための制度で、子どもの利益のためにあるという点が普通養子縁組と大きくちがいます。

比較表で見る主なちがい

全体を表にまとめました。
条文番号は民法のものです。

項目普通養子縁組特別養子縁組
成立のしかた役所への届出(未成年なら原則として家庭裁判所の許可が必要)家庭裁判所の審判
養親の条件20歳以上夫婦で一緒に。原則25歳以上(一方が25歳以上なら、もう一方は20歳以上で可)
養子の年齢養親より年下なら上限なし申立て時に原則15歳未満
実の親との関係続く終わる
試験的な養育期間なし6か月以上
戸籍の続柄「養子」「養女」「長男」「長女」など
離縁話し合いでできる原則できない

ここからは、特に誤解が多い4つのポイントを見ていきます。

養子になれる年齢は2020年に大きく変わった

特別養子縁組の年齢の上限は、2020年4月1日に引き上げられました。
それまでは原則6歳未満でしたが、改正後は原則15歳未満になっています。

あわせて、審判が確定するまでに18歳になった子は養子になれないこと、15歳以上の子なら本人の同意が必要なことも決められました。
改正の内容は、法務省の民法等の一部を改正する法律(特別養子関係)の解説ページにまとまっています。

ネット上には、いまも「6歳未満」と書かれたままの古いQ&Aが残っています。
調べるときは、記事がいつ書かれたものかを必ず確認してください。

届出で済むか、家庭裁判所が決めるか

普通養子縁組は、役所に届け出れば成立します。
ただし未成年の子を養子にするときは、家庭裁判所の許可が必要です(民法798条)。
自分や配偶者の子や孫を養子にする場合は、許可はいりません。

特別養子縁組は、家庭裁判所の審判で成立します。
2020年の改正で手続きが2段階に分かれました。
まず実の親の養育状況や同意を確認し、そのあとで養親との相性を見て縁組を認めるかどうかを判断します。

試験的に一緒に暮らす期間も、6か月以上必要です(民法817条の8)。
この期間の様子を見たうえで、家庭裁判所が判断します。

実の親の同意はどこまで必要か

普通養子縁組で15歳未満の子を養子にするときは、親権者などの法定代理人が子に代わって承諾します(民法797条)。
15歳以上なら、子ども本人が自分で縁組の当事者になります。

特別養子縁組では、原則として実の父母の同意が必要です(民法817条の6)。
ただし、父母が意思を示せない場合や、虐待や育児放棄など子の利益を大きく損なう事情がある場合は、同意がなくても縁組が認められることがあります。

2020年の改正では、実の親の同意について新しいルールもできました。
1段階目の手続きで実の親が裁判所に示した同意は、2週間たつと撤回できなくなります。

改正前は、試験的に一緒に暮らしている途中で実の親が同意を取り消すおそれがあり、養親になる人は不安を抱えたまま子育てをしていました。
施設から里親さんの家に移った子を見送ったとき、私も「このまま落ち着いて暮らせるといいな」と祈るような気持ちでした。
子どもの生活が大人の気持ちの変化で揺さぶられにくくなったのは、大事な変化だと思います。

戸籍の書き方のちがい

政府広報オンラインの養子縁組と里親制度の解説記事は、2つの制度の大きなちがいは戸籍の表記にあると説明しています。
普通養子縁組の続柄は「養子」「養女」、特別養子縁組では「長男」「長女」のように実の子と同じ書き方になります。

戸籍のちがいで思い出すのが、エステ「たかの友梨ビューティクリニック」の創業者、たかの友梨さんの話です。
1948年生まれのたかのさんは、幼いころに養子に出され、養母の八千代さんに育てられました。
週刊女性PRIMEの取材では、14歳のときに戸籍謄本を取り寄せたら「養子」と書いてあった、と語っています。

たかのさんが生まれたのは、特別養子縁組の制度ができる40年ほど前です。
当時は、親が入れ替わる形の縁組はまだ制度として用意されていませんでした。

テレビ番組では、養子だと分かったあと、自分を育ててくれた母への気持ちが感謝に変わったと話しています。
理容師の道に進んだのも、養母に手に職をつけるよう勧められたからだそうです。
たかのさん自身の言葉や日々の様子は、子供時代を養母のもとで過ごしたたかの友梨さんのInstagramからも知ることができます。

戸籍の書き方は、制度の細かいちがいに見えるかもしれません。
でも、子どもが自分の出自を知るきっかけになることもあると、たかのさんの話を読んで改めて感じました。

離縁と相続のちがい

普通養子縁組は、養親と養子の話し合いで離縁できます(民法811条)。
相続では、実の親と養親の両方から相続する立場になります。

特別養子縁組は、原則として離縁できません。
例外は、養親による虐待などがあり、実の親が十分に子を育てられる場合だけです(民法817条の10)。
離縁を求められるのは養子、実の親、検察官で、養親の側から離縁を求めることはできません。

いったん親子になったら、大人の都合でやめられない仕組みになっているわけです。
相続も、実の親との関係が終わるので、養親からだけ相続します。

数字で見る養子縁組のいま

特別養子縁組は、思っているより件数が少ない制度です。
こども家庭庁の資料「社会的養育の推進に向けて」(令和8年3月)に載っている司法統計年報の数字では、2024年の成立件数は563件でした。

年特別養子縁組の成立件数
2019年711件
2020年693件
2021年683件
2022年580件
2023年587件
2024年563件

一方、法務省の戸籍統計によると、養子縁組の届出は2025年度で51,617件ありました。
ここには大人どうしの養子縁組も含まれますが、普通養子縁組のほうがずっと身近な制度だと分かります。
同じ統計で2016年度は78,910件だったので、届出の数も少しずつ減っています。

元保育士として伝えたい、子どもの側から見たちがい

ここまでは大人の側から見た制度の話でした。
施設で働いていた私が気になるのは、子ども自身がこのちがいをどう受け止めるかです。

「本当のこと」をいつ、どう伝えるか

養子であることを子どもに伝えることを「真実告知」と呼びます。
特別養子縁組は戸籍が実の子と同じ書き方になるので、親が話さなければ子どもが知る機会は少なくなります。

日本財団が2017年に公表した子が15歳以上の養子縁組家庭の生活実態調査では、子どもの92%が自分が養子であることを知っていて、83%が告知を受けてよかったと答えています。
自由記述には、18歳で初めて知らされ、だまされていたという気持ちが30歳になっても消えない、という声もありました。

ただ、伝えれば必ずうまくいくわけではありません。
熊本日日新聞の連載では、児童養護施設で働く職員の方が、真実を知ることで救われるとは限らない、だからこそ知るかどうかを子どもが選べるようにしてほしい、と話していました。

施設にいたころ、自分の生い立ちを知りたがる子もいれば、触れられたくない子もいました。
どちらの気持ちも大事にしたいと、私も思っています。

里親や児童養護施設とのちがい

養子縁組とよく混同されるのが、里親制度と児童養護施設です。
ちがいを整理すると、次のようになります。

  • 養子縁組は、法律上の親子になり、子どもが大人になっても関係が続く
  • 里親は、実の親が育てられるようになるまでなど、一定期間あずかって育てる。戸籍は変わらない
  • 児童養護施設は、家庭で暮らせない子どもを施設の職員が育てる

施設で暮らしていた子のなかにも、のちに里親さんの家に移った子や、養子として迎えられた子がいました。
どの形がいいかは、子ども一人ひとりの事情で変わります。

たかの友梨さんは、群馬県前橋市の児童養護施設「鐘の鳴る丘少年の家」の後援会長を1995年から務めていると公式サイトで紹介しています。
養子として育った人が、家庭で暮らせない子どもたちを支える側に回っていることにも、私は心を動かされました。

迷ったときの相談先

養子縁組を考えはじめたら、ひとりで調べるより専門の窓口に相談するほうが確実です。
主な相談先は次のとおりです。

  • 児童相談所(養子縁組を前提とした里親の登録や、特別養子縁組の相談)
  • 国の許可を受けた民間の養子縁組あっせん機関
  • 家庭裁判所(未成年の養子縁組の許可や、特別養子縁組の手続き)
  • 弁護士や司法書士(相続や戸籍が絡む普通養子縁組の相談)

連れ子との縁組や相続対策なら普通養子縁組、実の親のもとで育つことが難しい子を迎えるなら特別養子縁組、というのが大まかな目安です。
ただ、どちらが使えるかは事情によって変わるので、最終的には窓口で確認してください。

まとめ

普通養子縁組と特別養子縁組のちがいを、あらためて整理します。

  • 普通養子縁組は実の親との関係が残る「親が増える」制度で、届出で成立する
  • 特別養子縁組は実の親との関係が終わる「親が入れ替わる」制度で、家庭裁判所が決める
  • 特別養子縁組の年齢の上限は、2020年から原則15歳未満になった
  • 戸籍の続柄は、普通養子縁組が「養子」、特別養子縁組が「長男」「長女」など
  • 特別養子縁組は原則として離縁できず、養親の側からはやめられない

制度のちがいは、大人の手続きのちがいでもありますが、子どもにとっては「自分は誰の子なのか」という問いにつながります。
どちらの制度を選ぶにしても、子どもがいつか自分の生い立ちと向き合うときのことを、少しだけ想像してみてください。

最終更新日 2026年10月27日 by seifuu