カメラのシャッター音が響く撮影現場で、私は一人の16歳のモデルが控室で深いため息をついているのを見た。
彼女の名前はミユ(仮名)。今まさに人気雑誌の専属モデル候補として注目を浴びている10代モデルだった。
「カメラの前では笑えるんです。でも、家に帰ってSNSのコメントを見ると、どうしても落ち込んでしまって…」
私はライターとして多くの10代モデルたちと接してきたが、彼女の言葉は決して珍しいものではない。華やかに見えるモデル業界の裏側で、10代の若者たちは「見られること」に対する複雑な感情と日々向き合っている。
本記事では、私が現場で見続けてきた10代モデルたちのリアルな葛藤と、それを取り巻く業界の現状について、感性派の読者の皆さんと一緒に考えていきたい。
「見られる存在」としての10代モデル
そもそも「見られる」とはどういうことか
10代でモデルとして活動するということは、同世代の多くが「自分らしさ」を模索している時期に、すでに「見せる自分」を職業として確立することを意味している。これは想像以上に複雑な心理状況を生み出す。
私が取材したある17歳のモデル、サキ(仮名)は次のように語った。
「学校では普通の高校生として過ごしたいんです。でも、クラスメイトは私を『モデルの子』として見る。撮影の話をしても『いいなあ、キラキラしてて』って言われるけど、実際はプレッシャーも多くて…。どの顔が本当の自分なのか、わからなくなることがあります」
彼女の言葉からは、10代という多感な時期に「職業としての自分」と「素の自分」の境界線を引くことの難しさが浮かび上がる。
モデル活動における視線の種類(観客・カメラ・SNS)
10代モデルたちが日常的に意識しなければならない「視線」は、大きく分けて3つのカテゴリーに分類できる。
**📱 *現代のモデルが意識する3つの視線*
- プロフェッショナルな視線:撮影現場でのカメラマン、クライアント、スタッフからの評価
- リアルタイムな視線:SNSフォロワーからの「いいね」やコメント、DM
- 日常的な視線:学校や街中での同世代からの注目、憧れ、時には嫉妬
それぞれの視線は異なる性質を持ち、10代モデルたちに与える影響も様々だ。プロフェッショナルな現場では技術的な成長を促す建設的な視線が多い一方で、SNSでは時として心ない言葉が投げかけられることもある[1]。
アメリカの調査によると、13〜17歳の青少年の95%がSNSを利用し、平均して1日に3.5時間をSNSに費やしている[2]。特に1日3時間以上SNSを利用する青年は、うつや不安といったメンタルヘルスの悪化のリスクが2倍になるという報告もある。
ステージと日常、その境界線のあいまいさ
昔のモデルは「撮影現場」と「プライベート」の境界線が比較的明確だった。しかし、SNS時代の10代モデルにとって、その境界線は驚くほど曖昧になっている。
私が定期的に取材している18歳のモデル、レナ(仮名)は、Instagramのフォロワーが10万人を超えている。彼女はこう話す。
「朝起きてから寝るまで、常に『投稿用の自分』を意識してしまうんです。友達とカフェに行っても、『この角度なら可愛く撮れるかな』とか考えちゃう。でも、それって本当に楽しめてるのかな、って疑問に思うことがあります」
この感覚は、多くの10代モデルが共有している現代特有の悩みだ。プライベートな時間すらも「コンテンツ」として消費される可能性があり、彼女たちは24時間365日、潜在的に「見られている」状態に置かれている。
葛藤のリアル:10代モデルたちの声
外見を評価されることへのプレッシャー
モデルという職業は、その性質上、外見を商品として扱う側面がある。これは大人のモデルにとっても簡単なことではないが、まだ自己肯定感が形成途中の10代にとっては、より深刻な影響を与える可能性がある。
私が撮影現場で出会った15歳のモデル、アユ(仮名)は、デビューから半年でファッション誌の表紙を飾るほどの実力を持っていた。しかし、ある日の撮影後、彼女は涙を浮かべてこう打ち明けた。
「昨日、ネットで『最近太った?』ってコメントを見つけてしまって…。それから鏡を見るたびに、本当にそうなのかなって気になって仕方ないんです。食事も楽しめなくなってしまいました」
このような体験は、10代モデルたちの間では珍しいものではない。身体的な成長期にある彼女たちにとって、体型の変化は自然なことだが、それがそのまま「商品価値」として評価されてしまう環境は、健全な成長を阻害するリスクを含んでいる。
**⚠️ *外見評価によるプレッシャーの具体例*
- 体重・体型への過度な意識:自然な成長過程での変化を「劣化」として捉えてしまう
- 肌の状態への敏感さ:思春期特有の肌トラブルを極度に気にする
- 他のモデルとの比較:SNSで同世代モデルと自分を比較し続ける
- 食事制限への傾倒:健康的な食事よりも体型維持を優先してしまう
SNS時代の「いいね」による自己認識の揺らぎ
現代の10代モデルたちにとって、SNSの「いいね」数やコメントは、単なる数字以上の意味を持っている。それは時として、自己価値を測る尺度として機能してしまう。
私が継続的に取材している16歳のモデル、ナナ(仮名)は、フォロワー数8万人のインスタグラマーでもある。彼女は率直にこう語った。
「投稿して30分くらいは、スマホから離れられないんです。いいねの数が思ったより少ないと、『今日の写真、よくなかったのかな』って落ち込む。でも、いいねが多いと今度は『次はもっといい写真を撮らなきゃ』ってプレッシャーになる。どっちにしても、心が休まらないんです」
この現象は、心理学的に「間欠強化」と呼ばれるメカニズムに近い。予測できないタイミングで得られる「報酬」(いいねやコメント)は、より強い依存性を生み出すとされている。
10代は、欲求や感情を司る大脳辺縁系の成熟が先行するのに対して、衝動性をコントロールする前頭前野の成熟は本格化していない時期だ[2]。そのため、SNSの「いいね」などの機能によって長時間利用してしまいやすく、大人よりものめり込みやすいと考えられている。
プライバシーとのせめぎ合い
モデル活動を続ける上で、どこまでプライベートを公開するべきかという問題は、10代にとって特に難しい判断を迫る。事務所側は「親しみやすさ」を求める一方で、本人は「普通の学生生活」も大切にしたいと考える。
ある17歳のモデル、ユイ(仮名)は、この葛藤についてこう話した。
「マネージャーさんからは『もっと日常の写真も上げて』って言われるんです。でも、友達と遊んでいる時まで写真を撮るのは、なんだか友達に申し訳なくて…。『私、この子と友達やってるよ』みたいにアピールしてるみたいで嫌なんです」
このジレンマは、10代モデル特有のものだ。大人のモデルの場合、プライベートと仕事の境界線を自分で決められるが、10代の場合、学校生活や友人関係といった「守るべき日常」がより多く存在する。
見られることをポジティブに捉える瞬間
しかし、すべてが葛藤ばかりではない。多くの10代モデルたちが、「見られること」に喜びや充実感を見出している瞬間も確実に存在する。
私が撮影現場で出会った17歳のモデル、カナ(仮名)は、読者からのDMについてこう語った。
「『カナちゃんみたいになりたくて、今日は早起きしてウォーキングしました』とか、『勇気をもらいました』っていうメッセージをもらうと、本当に嬉しいんです。自分の存在が誰かの役に立っているって実感できる。これは普通の高校生活では味わえない特別なことだと思います」
また、別の16歳のモデル、ミキ(仮名)は、表現することの喜びについてこう話した。
「撮影で『いいね!』って言われる瞬間が一番好きです。自分が想像していた以上の表現ができた時の達成感は、何にも代えがたい。見られているからこそ、自分の新しい可能性を発見できるんだと思います」
**✨ *「見られること」がもたらすポジティブな側面*
- 表現力の向上:人に見せることを意識することで、自己表現スキルが磨かれる
- 社会との繋がり:ファンからの応援メッセージを通じて、社会に貢献している実感を得る
- 自己発見の機会:様々な役割を演じることで、自分の新たな一面を知る
- プロ意識の醸成:責任感を持って仕事に取り組む姿勢が身につく
モデル事務所のまなざしと支援体制
マネージャーの視点:「売る」ことと「守る」ことのバランス
モデル事務所のマネージャーたちも、10代モデルのマネジメントには特別な配慮が必要だということを理解している。私が取材したある大手事務所のマネージャー、田中さん(仮名)は次のように語った。
「10代の子たちは、まだ『商品』として自分を客観視することに慣れていません。私たちの仕事は、彼女たちの魅力を最大限に引き出すことですが、同時に一人の人間として健全に成長できるようサポートすることでもあります」
田中さんによると、10代モデルのマネジメントでは、以下のような点に特に注意を払っているという。
まず、学業との両立を最優先にしている。どんなに魅力的な仕事のオファーがあっても、学校行事や定期試験の時期は無理をさせない。「モデル活動は素晴らしい経験ですが、10代にとって学校生活は二度と戻らない貴重な時間です。それを犠牲にしてまでの仕事はありません」と田中さんは強調した。
また、SNSの使い方についても定期的に指導を行っている。「炎上リスクの回避はもちろんですが、それ以上に彼女たち自身のメンタルヘルスを守るためです。いいねの数に一喜一憂しすぎないよう、定期的にカウンセリングのような時間を設けています」
メンタルサポートや教育プログラムの現状
近年、モデル事務所業界全体で、所属モデルのメンタルヘルスケアに対する意識が高まっている[3]。特に10代モデルに対しては、従来の「仕事の斡旋」という役割を超えた、包括的なサポート体制が求められている。
私が調査した複数の事務所では、以下のような支援プログラムが導入されていた。
**🏥 *現在実施されているメンタルサポート体制*
- 定期面談制度:マネージャーとの1対1の面談を月1〜2回実施
- 心理カウンセラーの配置:外部の専門家と提携し、必要時にカウンセリングを受けられる体制
- SNSリテラシー教育:健全なSNS利用方法についての定期的な研修
- 栄養指導プログラム:健康的な食事管理についての専門的なアドバイス
- 保護者との連携強化:家庭と事務所が情報を共有し、一体となってサポート
しかし、すべての事務所でこうした体制が整っているわけではない。特に小規模な事務所では、リソースの制約から十分なサポートを提供できていないケースも存在する。
「子ども」から「プロフェッショナル」への移行をどう支えるか
10代モデルのマネジメントで最も難しいのは、「子どもとして守るべき部分」と「プロとして成長させるべき部分」のバランスを取ることだ。
私が取材した中堅事務所の代表、山田さん(仮名)は、この点について興味深い見解を示した。
「10代の子たちには、『完璧なプロ』を求めません。むしろ、失敗から学ぶ経験を大切にしています。ただし、その失敗が彼女たちの自尊心を深く傷つけないよう、常にフォローアップを心がけています」
山田さんの事務所では、新人の10代モデルに対して段階的な責任の付与を行っている。最初は小さな撮影から始め、徐々に責任の重い仕事を任せていく。その過程で、プロとしての意識を育てつつ、年齢相応の配慮も忘れない。
「重要なのは、彼女たちが『モデル』である前に『一人の人間』だということを忘れないことです。モデル活動を通じて人として成長できるよう支援することが、私たちの使命だと考えています」
表現としてのモデル活動:自己と社会のあいだで
見せること=表現? それとも商品?
10代モデルたちが直面する根本的な問いの一つは、自分の活動が「表現」なのか「商品」なのか、という哲学的とも言える疑問だ。
私が長期取材している18歳のモデル、エリ(仮名)は、この点について深く考えを巡らせていた。
「最初は、可愛い服を着て写真を撮ってもらえるのが楽しくて始めました。でも続けているうちに、自分の表情や動きで何かを伝えられるんだって気づいたんです。それって、絵を描いたり音楽を演奏したりするのと同じような『表現』なんじゃないかって思うようになりました」
一方で、同じく18歳のモデル、リサ(仮名)は異なる視点を持っていた。
「正直、私たちは『商品』だと思います。でも、それが悪いことだとは思わない。商品として価値を認められることで、結果的に多くの人に影響を与えられる。その影響力を使って、何か意味のあることができれば、それは立派な『表現』になるんじゃないでしょうか」
この二つの視点は、どちらも10代モデルたちの等身大の想いを表している。重要なのは、どちらか一方が正解ということではなく、彼女たち自身がこの問いと向き合い続けることなのかもしれない。
10代モデルが語る「自分らしさ」と「演じる自分」
多くの10代モデルたちが語るのは、「自分らしさ」と「演じる自分」のバランスの難しさだ。クライアントの要求に応えつつ、自分の個性も表現したいという願いは、時として矛盾を生む。
私が撮影現場で出会った16歳のモデル、ハルカ(仮名)は、この矛盾について率直に語った。
「『もっと大人っぽく』って言われることが多いんです。でも、実際の私はまだまだ子どもっぽいところがたくさんある。演じている時は大人っぽい自分を表現できるけど、それが本当の私なのかわからなくなることがあります」
この感覚は、アイデンティティが形成途中の10代だからこそ感じる特有の悩みだ。大人のモデルの場合、確立された自己像があるため、「演じる」ことと「自分らしさ」の区別がより明確だが、10代の場合、その境界線が曖昧になりがちだ。
しかし、この曖昧さは必ずしもネガティブなものではない。別の17歳モデル、ユウカ(仮名)はこう話す。
「いろんな役を演じることで、自分の中にある色々な面を発見できます。普段はおとなしいけど、撮影では積極的になれたり。それも全部、私の一部なんだって思えるようになりました」
ライターが見た「Z世代の素の顔」とその可能性
私は大学時代から一貫して「Z世代の”素の顔”」をテーマに活動してきた。10代モデルたちと接する中で感じるのは、彼女たちが持つ表現力の豊かさと、同時に抱える繊細さの複雑な共存だ。
Z世代の特徴として、多様性への理解と個性の尊重が挙げられる。10代モデルたちも、従来の「モデル像」にとらわれない、より自由な表現を模索している。
**🎨 *Z世代モデルの新しい表現スタイル*
- リアルさの追求:完璧さよりも等身大の魅力を重視
- 多様性の受容:画一的な美しさではなく、個性的な魅力を大切にする
- 社会性の意識:ファッションを通じてメッセージを発信する
- デジタルネイティブ:SNSを自己表現のツールとして巧みに活用
私が取材した19歳のモデル、アオイ(仮名)は、この世代の特徴を象徴するような存在だった。
「私は、完璧なモデルになりたいわけじゃないんです。自分らしくいながら、見てくれる人が『私も頑張ろう』って思えるような存在になりたい。そのためには、時には失敗している姿も見せることが大切だと思っています」
彼女の Instagram には、華やかな撮影写真と並んで、勉強に悩んでいる様子や、メイクに失敗した写真なども投稿されている。一見すると「プロとして」適切ではないような投稿だが、フォロワーからは「親近感が湧く」「励まされる」といった温かいコメントが寄せられている。
このような表現スタイルは、従来の「完璧なモデル像」とは異なる新しい価値観を示している。完璧さよりもリアルさを、距離感よりも親近感を重視する Z世代らしいアプローチと言えるだろう。
まとめ
「見られること」の光と影をどう受け止めるか
この記事を通じて見えてきたのは、10代モデルたちが抱える「見られること」への複雑な感情だった。それは単純に「良い」「悪い」で分けられるものではなく、光と影が複雑に絡み合った、極めて現代的な課題だ。
SNS時代の「いいね」文化は、彼女たちに新たなプレッシャーを与える一方で、多くの人とつながり、影響を与える機会も提供している。プライバシーの境界線が曖昧になる中で、自分らしさを保ちながら表現することの難しさがある一方で、より自由で多様な表現の可能性も広がっている。
重要なのは、こうした現状を「問題」として捉えるのではなく、新しい時代の「現実」として受け入れ、その中でどう健全に成長していくかを考えることだろう。
モデルという職業を通して見える、社会の期待と個の表現
10代モデルたちの葛藤は、実は現代社会に生きる多くの若者が共有している課題の縮図でもある。SNSによって誰もが「発信者」になれる時代、多かれ少なかれ、私たちは皆「見られること」を意識して生きている。
モデルという職業は、その「見られること」を極限まで高めた存在だ。だからこそ、彼女たちの経験や葛藤から学べることは多い。
**💭 *10代モデルの経験から学べること*
- 自己肯定感の育て方:外部からの評価に左右されすぎない心の強さの重要性
- 表現することの喜び:自分の個性を活かして人に何かを伝える充実感
- 境界線の引き方:プライベートと公の自分を適切に使い分ける技術
- 支え合いの大切さ:一人で抱え込まず、周囲のサポートを受け入れる勇気
読者への問いかけ:「あなたはどう”見られたい”ですか?」
最後に、この記事を読んでくださった皆さんに問いかけたい。
「あなたはどう”見られたい”ですか?」
この問いに正解はない。しかし、10代モデルたちの等身大の悩みや喜びを知ることで、私たち自身が「見られること」「表現すること」について考えるきっかけになれば幸いだ。
彼女たちが教えてくれるのは、完璧である必要はないということ。自分らしさを大切にしながら、時には新しい自分に挑戦することの素晴らしさ。そして何より、一人で悩まず、信頼できる人たちと支え合いながら成長していくことの大切さだ。
モデルという特別な職業を通じて見えてくる「見られることの葛藤」は、実は私たち誰もが向き合うべき、とても身近で大切なテーマなのかもしれない。
あなたも、自分らしい「見られ方」「表現の仕方」を見つけてみませんか?
参考文献
[1] SNSが10代のメンタルヘルスに及ぼす悪影響とは 米公衆衛生のトップが勧告[2] Z世代に刺さるSNSはどれ?最新コンテンツマーケティングガイド【2025年版】
[3] モデル事務所 大阪|おすすめ10選とオーディション情報【2025年】
最終更新日 2025年6月25日 by seifuu